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そらから。 謎の女教師編・「サクリファイス 後編」

2008.02.25(Mon)


(そらから。 謎の女教師編・「サクリファイス 後編」)


少女は自らが入ってきた扉の前で立ち尽くしていた。

その扉との対比によって、この少女は力がないのだろうと推測される。

それは小さく、とても可愛いのだ。まるで幼子のようにも見て取れるような・・・。

そんな少女を見つめながら、白衣の女性はゆっくりと手招きをした。

その表情には優しげにも・・・しかし何処か嫌らしくも受け取れるような笑みを浮かべながら。


「ほら、こっちにいらっしゃい」


少女はその言葉に従う。

いや、従うしかないのだろうか。

見るからに怯えているようにして、その歩みを進めていく。

では・・・何に対して、この少女は怯えているのだろう。

少女が小さな声で呟くように言葉を発した。


「先生・・・あの・・・わたしのあれ・・・・返してください」


それは本当に小さくて呟くような。

きっと風が吹けば持っていかれそうな。

声になっていないような・・・。

そのことからも、この少女はやはり怯えているのだ。

その対象は・・・少女の目の前にいる白衣の女性に違いない。

そんな少女の心を見透かしたのだろう。白衣の女性は瞳を妖しげな色に輝かせた。

そして、白衣の女性は・・・少女の細い腕を突然掴んだ!!

少女はその瞬間に、まさに恐怖のあまりなのか瞼を伏せてしまう。

だが、少女もずっと瞼を伏せて何も見ないことにする訳にはいかなかった。

なぜならば、その服越しから感じられるものが、

この少女の身体を撫で回すようにしながら蠢いてきたのだから。

その小さくて、可愛らしい・・・丸みを帯びた少女の身体。

その身には、これまで感じた事がないような痺れ感じて・・・。


「いやあっ!」


少し薄暗く感じる部屋の中で少女の突き刺すような悲鳴が響き渡った。

この少女にもそんな声が出せたのか・・・。

だが、そんな叫びはもはや何の意味も成してはくれないのだ。


"サクリファイス"


それはこの学園の夜にいつからか繰り返されているという、学園空不思議の一つである。

恐らくは他愛のない噂だろうと、学園の皆はそれぞれに思っている。

別に誰かが消え去るとか、その命を失くす訳ではない。

だが、何故か奇妙な出来事が起こってもいるらしいのだ。

いつかは「くたぁ・・・」となって体中の力が抜けたようになり、ベッドから抜け出ること出来なくなった女生徒。

いつかには「ふらぁ・・・」となったのか、廊下などで倒れこむ女生徒。

その女生徒たちは、皆保健室へと運び込まれて、そして気分は何とか収まるらしいのだが・・・。

近年では最初の頃は一人二人だったものが、かなりの人数にも増えたとも噂されていた。

それが「サクリファイス」だ。

一体誰がこんな呼び方を最初にしたのかは知らない――。


ああ、この少女はあまりに幼くて、小さくて・・・そして可愛らしくて。

きっと、サクリファイス(生贄)とされるには格好のターゲットだったのでもあったのだろうか。


「離してください!」

「離して!」

「いやっ!」



その声は発せられる度に悲痛さを大きくしていった。

だが、この場所には誰も少女の叫びに気付き、そして助けてくれる存在はいない。

それどころか、その悲鳴をまるでピアノか何かの音色を楽しむかのようにして笑ってみせる。

そして手を伸ばし、細い指絡め、

まるで自由自在に、それはもはや我が物のようにして扱う。

そんな、そんな・・・そんなの・・・もう・・・・・――。



「い、いやああああっ・・・・・・!!」



最後に一際大きな叫びが部屋中にこだまし、その後にはかすかな衣擦れと、

そして同時に粘度のある液体が、まるでくっ付いたり離れたりするような音が響いてきた。

その水音は何かニチャニチャ。ニチャニチャ。

もしこれを誰かが聴いたなら、きっと心に淫らを意識させるような、

それはそんな・・・そんないやらしい音だった。

それが繰り返され、繰り返され、そして時は過ぎていく。

そして、いつしか部屋の中で夜の静けさが戻った頃・・・もう其処には誰もいなかった。

ただ、部屋の白い床には幾つかの水溜りだけ残して・・・。


・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・


いつしか迎えていた朝の光。

それは、その水溜りへと輝きを乱反射させて。

噂と呼ばれるものに、人は心のどこかに期待と秘密を抱くもの。

この学園で同じ時を過ごす乙女たちも同じく。きっと・・・人とは欲深き存在でもあるのだ。

噂には尾ひれ付き纏うもの。

そして噂には元となるようなものが必ず何処かにある。

また一人の少女が、まるで何かを吸い取られたようにして・・・ベッドから抜け出る事が出来なくなった。

これで、また学園空不思議の一つが、

その密やかなる噂と興味と謎を・・・おそらく広めるのであろう――。


(〜fin〜)

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